資本を持つ人は、資本が生み出した利益によってさらに豊かになっていく。
一方、資本を持たない人は、働いて得た収入だけで生活しなければならず、資産を持つ人との差が広がっていく。
これが、この記事で最も伝えたいことです。
その理由を考えるヒントになるのが、フランスの経済学者トマ・ピケティが『21世紀の資本』で示した「r>g」です。
簡単にいえば、株式や不動産などの資本から得られる利益が、経済や所得の成長より速い状態が長く続けば、すでに資本を持っている人へ富が集まりやすくなるという考え方です。
ただし、資本を持たない人が必ず絶対的に貧しくなるという意味ではありません。給料が増えて生活水準が上がることもあります。それでも、資本を持つ人の資産がそれ以上の速さで増えれば、両者の相対的な格差は広がります。
しかし、私たちはこの仕組みを知って悲観するだけで終わる必要はありません。
今は全世界株式やS&P500などに連動する低コストのインデックスファンドへ、少額から簡単に投資できる時代です。投資信託を通じて企業の株式を保有すれば、普通の会社員でも世界を代表する企業のオーナー側に参加できます。
| r>gから分かること | 私たちが取れる行動 |
|---|---|
| 資本を持つ人ほど利益を再投資できる | 少額でも企業のオーナー側へ回る |
| 小さな利回り差も長期では大きくなる | 短期売買ではなく長期で考える |
| 一つの資産への集中は危険 | 国や企業を広く分散する |
| 運用コストは確実に差し引かれる | 低コストの商品を選ぶ |
| 株式は大きく値下がりすることがある | 生活防衛資金を先に確保する |
r>gとは何を意味するのか
rとgは、次の数字を表しています。
| 記号 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| r | 資本収益率 | 株式の利益、配当、利子、家賃など |
| g | 経済成長率 | 国全体の所得や生産が伸びる割合 |
rがgより大きければ、資産は経済全体より速く増えやすくなります。
たとえば、資産収益率を年4%、経済成長率を年1%と仮定します。
1,000万円をそれぞれ年4%、年1%で複利計算すると、次の差が生まれます。
| 経過年数 | 年4%の場合 | 年1%の場合 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 約1,480万円 | 約1,105万円 | 約375万円 |
| 20年 | 約2,191万円 | 約1,220万円 | 約971万円 |
| 30年 | 約3,243万円 | 約1,348万円 | 約1,895万円 |
※最初に1,000万円を保有し、利益をすべて再投資した単純試算です。税金、手数料、物価変動は考慮していません。
これは仕組みを理解するための単純な試算であり、実際の収益率や経済成長率は毎年変動します。それでも、わずかな差が長期間続くと、複利によって大きな差になることが分かります。
元本が大きいほど得られる利益も大きい
同じ年4%の収益率でも、最初に持っている資産によって利益額は変わります。
| 保有資産 | 年4%の利益 |
|---|---|
| 10万円 | 4,000円 |
| 100万円 | 4万円 |
| 1,000万円 | 40万円 |
| 1億円 | 400万円 |
資産を多く持つ人は、大きな利益を得て、その一部を再投資できます。さらに住宅、土地、株式などを相続できれば、資産形成をゼロから始める必要もありません。
一方、資産を持たない人は、働いて生活費を払い、残ったお金から元本を作る必要があります。この出発点の違いが長期間積み重なることで、資産格差は広がりやすくなります。
1億円を持つ人が年4%の利益から300万円を使った場合でも、100万円を再投資できます。一方、資産を持たない人は、労働収入から生活費を差し引いて元本を作らなければなりません。
| 人 | 資産からの利益 | 生活費などに使用 | 再投資できる金額 |
|---|---|---|---|
| 1億円を年4%で運用 | 400万円 | 300万円 | 100万円 |
| 資産を持たない人 | 0円 | 労働収入から負担 | 労働収入の残額次第 |
※仕組みを示すための仮定です。実際の運用益や生活費は一定ではありません。
昔と今では株式投資の環境が違う
r>gを知ると、「最初から資産がない人にはどうしようもない」と感じるかもしれません。
しかし、現在は昔よりも、普通の人が株式を持ちやすくなっています。
S&P500という指数自体は1957年に現在の形で始まりましたが、個人向けのS&P500連動インデックスファンドが登場したのは1976年です。その後、インターネット証券や低コスト投資信託が普及し、投資環境は大きく変化しました。
| 昔 | 現在 |
|---|---|
| 海外の情報を集めにくい | スマートフォンで確認できる |
| 個別株を自分で選ぶ必要がある | 市場全体へまとめて投資できる |
| 海外株への投資が難しい | 全世界の企業へ分散できる |
| まとまった資金が必要 | 少額から積み立てられる |
| 手数料が高い | 低コストの商品が増えた |
全世界株式型のインデックスファンドなら、米国、日本、欧州、新興国などの多数の企業へまとめて投資できます。S&P500連動型なら、米国を代表する大型企業約500社を幅広く保有できます。
働いて得たお金の一部をこうした商品へ移せば、労働者であると同時に、企業の株主にもなれます。自分が働くだけでなく、投資先の企業やそこで働く人たちが生み出した利益の一部を、資本の持ち分に応じて受け取る側へ回れるのです。
もちろん、大きな元本を持つ資産家と同じ条件になるわけではありません。それでも、普通の人が少額から企業のオーナー側へ参加できることは、昔との大きな違いです。
月1万円でも長期では差が生まれる
最初から大きな元本がなくても、毎月積み立てることで資産を作れます。
| 積立期間 | 投資した元本 | 年5%で運用できた場合 | 運用で増えた部分 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 120万円 | 約155万円 | 約35万円 |
| 20年 | 240万円 | 約411万円 | 約171万円 |
| 30年 | 360万円 | 約832万円 | 約472万円 |
※毎月末に1万円を積み立て、年5%で運用できたと仮定した概算です。税金、手数料は考慮しておらず、将来の成果を保証するものではありません。
「必ず832万円になる」という意味ではありません。少額でも、時間と複利を使えば資本を育てられる可能性があることを示しています。
筆者がインデックス投資をすすめる理由
筆者自身も、長期・分散・低コストを基本にインデックス投資を実践しています。
将来必ず利益が出るからではありません。どの企業が勝つかを予想するのではなく、多数の企業をまとめて保有し、世界の企業が長期的に生み出す利益の一部を、自分の資産形成にも取り込みたいと考えているからです。
特に重視したいのは、次の3点です。
- 長期:短期の値動きに振り回されず、長く保有する
- 分散:一つの企業だけでなく、多数の企業や国へ投資する
- 低コスト:信託報酬など、保有中にかかる費用を抑える
将来の運用成績は選べませんが、コストは商品を選ぶ段階で比較できます。小さなコスト差も長期間では積み重なるため、必ず確認したいポイントです。
100万円を保有している場合の年間コストを単純比較すると、次のようになります。
| 年間コスト率 | 1年間のコスト概算 | 20年間の単純合計 |
|---|---|---|
| 0.1% | 1,000円 | 2万円 |
| 0.5% | 5,000円 | 10万円 |
| 1.0% | 1万円 | 20万円 |
※保有額を100万円で固定した比較です。実際の金額は、日々変動する保有残高に応じて変わります。
運用成績が同じなら、コストが低い商品のほうが手元に残る金額は多くなります。
金融庁も、資産形成では家計管理とライフプランニングを行ったうえで、長期・積立・分散投資を活用する考え方を紹介しています。
投資より先に生活防衛資金を確保する
インデックス投資をすすめるからといって、生活費まで投資へ回してよいわけではありません。
全世界株式やS&P500も元本保証ではなく、大きく値下がりすることがあります。急な出費が発生したときに現金がなければ、価格が下がっている資産を売らなければなりません。
| お金の目的 | 基本的な置き場所 |
|---|---|
| 毎月の生活費 | 預貯金 |
| 急な出費に備えるお金 | 預貯金 |
| 数年以内に使う予定のお金 | 原則として預貯金 |
| 当面使う予定のない余剰資金 | リスク許容度に応じて投資 |
必要な生活防衛資金は、毎月の生活費、家族構成、雇用の安定性などによって異なります。
毎月の最低生活費を基準にすると、必要額を考えやすくなります。
| 毎月の最低生活費 | 3か月分 | 6か月分 | 12か月分 |
|---|---|---|---|
| 15万円 | 45万円 | 90万円 | 180万円 |
| 20万円 | 60万円 | 120万円 | 240万円 |
| 25万円 | 75万円 | 150万円 | 300万円 |
収入が安定している会社員なら数か月分、収入が変動する個人事業主や扶養家族がいる家庭なら、より厚めに備える考え方があります。ただし、全員共通の正解はありません。
大切なのは、投資額を最大化することではありません。相場が大きく下落しても生活を壊さず、慌てて売らずに済む状態を作ることです。
r>gは「株を買えば必ずもうかる」という意味ではない
ピケティのrは、社会全体の資本から生まれる収益を表す概念です。個人が保有する全世界株式やS&P500の運用利回りとは同じではありません。
株式市場には、次のようなリスクがあります。
- 購入後に大きく値下がりする可能性がある
- 数年間、含み損が続くこともある
- 全世界株式でも市場全体が下がれば値下がりする
- S&P500には米国への集中リスクがある
- 過去の好成績は将来の利益を保証しない
100万円を投資した直後に相場が下落した場合、評価額は次のようになります。
| 下落率 | 下落後の評価額 | 含み損 |
|---|---|---|
| 10% | 90万円 | 10万円 |
| 20% | 80万円 | 20万円 |
| 30% | 70万円 | 30万円 |
| 50% | 50万円 | 50万円 |
この金額を見て生活に支障が出たり、怖くなって売ってしまいそうなら、投資額がリスク許容度を超えている可能性があります。割合だけでなく「何円減るのか」で考えることが大切です。
また、r>gだけで格差のすべてを説明できるわけではありません。税制、相続、教育、雇用、社会保障なども格差に影響します。
それでも、資本を持つ人が利益を得て再投資を続ける一方、資本を持たない人はその利益を受け取れません。この状態が続けば、資本を持つ人はより豊かになり、持たない人は相対的に取り残されやすくなります。
だからこそ、生活に無理のない範囲で、少額でも資本を持つことに意味があります。
まとめ:インデックスファンドで企業のオーナー側へ回ろう
r>gは、資本から得られる利益が、経済全体の成長より速く増えやすいことを表しています。
資本を持つ人は、資本が生み出した利益を再投資し、さらに資産を増やせます。一方、資本を持たない人は労働収入だけで生活し、その残りから元本を作らなければなりません。この違いが長く続けば、両者の格差は広がっていきます。
しかし今は、全世界株式やS&P500などに連動する低コストのインデックスファンドへ、少額から簡単に投資できる時代です。特別な資産家でなくても、多数の企業の株式を間接的に保有し、その企業のオーナー側へ参加できます。
だからこそ筆者は、普通の人にも長期・分散・低コストのインデックス投資をすすめたいと考えています。筆者自身も実践しています。
ただし、投資より生活が優先です。
まず家計を整え、生活防衛資金を確保する。そのうえで、当面使う予定のない余剰資金を、自分のリスク許容度に合わせて投資することが大切です。
働いて収入を得る。生活を守る現金を持つ。そして余剰資金の一部を、長期・分散・低コストのインデックスファンドへ移し、資本に変えていく。
r>gを知ることは、格差を悲観するためではありません。「資本を持つ人だけが豊かになりやすい」という仕組みを理解し、自分も少しずつ企業のオーナー側へ回るための出発点です。
主な参考資料
- トマ・ピケティ『21世紀の資本』
- 金融庁「資産形成の基本」
- S&P Dow Jones Indices「S&P 500」
- Vanguard「Our history」

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